『千年比丘尼物語』について
日本史の中で自分が一番好きな時代は中世だが、これが戦国時代になると、有力な大名が現れて、日本が区分けされてしまう。奇妙な例えになるが、〈タマゴの黄身の半熟部分〉というか、中央集権が崩れはじめる一方、有象無象の連中が動き出し、まだ権力の分離が微妙な感じ、というイメージで中世をとらえていた。
実際素人ながらに調べて見ると奥が深いもので、なかなか中世の全体像などとらえることもできないのだが、その混沌とした時代に主人公を置いて書いてみたかった。
それを思い立ったのが十年以上前のことで、この作品が公表する作品の中で一番古いものとなる。
「千年比丘尼物語」というタイトル通り、物語色の強いものとなったが、それは主人公達を部族のように描き、日本の中でもかなり孤立した文化の連中としたことでも分かる。そのような者たちがいてもおかしくない、という意味で中世に設定したのだが、今の自分なら、たぶんそれは書かない。
若いうちに書いたから、読み返してみて気にならない点がないとは言えない。出来の悪さというよりも、視点の狭さや、十年後に書く『彼方』と似た構造がある点(『彼方』を書いていたときはまったくそれは意識しなかった)など、今の自分ならそう書かないという感じがするが、それは作品を書いていれば必ずあることだから仕方ない。